茜空

軒先から吹き込む

軒先から吹き込む雨粒が

その小さな喫茶店の窓ガラスにも、

走るようにぶつかっていた。

僕は窓際の席で

薄明るい曇り空を見上げていた。

時計を見遣り、

コーヒーカップに口をつけると

冷め始めていたブラックコーヒーは

酸味を増しているようだった。

〝今日は来ないかな。〟

メンソールの煙草を灰皿に押し付け、

参考書を閉じると同時に、

店内のBGMはリズムを変えた。

1990年代。

スマホも携帯も、

ましてやポケベルなんて代物が

流行り出す前の恋愛事情は、

大体こんなものだった。

浪人生だった僕も

その頃の例に漏れず、

そんな恋をしていた。



-茜空