わからない。
そのすべてのような気がしたし
そのすべてが違うような気もした。
ただひとつ、僕はその瞬間を忘れてはいけない。
それだけは確かだった。
さくらという猫がいた。
いわくつきの名前をつけてしまい
父と小鉄というもう一匹の兄妹猫と
僕達が本当に辛い試練の時期を
四つの温もりと母のサポートなどで
慎ましく耐えて暮らした
かけがえのない家族だった。
後にロシナンテとSNをつけて
迷惑をかけた猫である。
色々な人生の機微を共にした。
父が亡くなった時も
母と同居するようになった時も
僕が世界から虐げられていた時も
側に居てくれた。
とても賢く優しく病弱ではあったが
手のかからない良い子だった。
長い闘病の末、
最期の時も僕の仕事の休みの日まで耐えて、
僕に看取らせてくれ、行ってしまった。
その最期の瞬間のことである。
息を引き取る3時間位前。
さくらは涙を流しながら僕を見つめ、
ミャーミャーミャーとゆっくり鳴いた。
残念ながら僕には意味がわからなかった。
でも確かにそこに絆はあったし、
胸には届いた。
死ぬってどんなこと?
苦しいよ。
これが最期?
みんなのところに行くよ。
これが生きるということだよ。
お前が心配だな。
天国で見守っているよ。
ありがとう。
あいしてるよ。
僕にはわからなかった。
でも、胸には届いた。
そして、この瞬間は忘れてはいけない。
そんな気がした。
僕に言えることは
「ありがとう。」
「あいしてるよ。」
それだけだった。