茜空

〝トクリ〟

〝トクリ〟

ゆっくりと、けど確かに

響きはじめたその音に

空は波打ち、海は静まり返った。

昨夜、枯れたはずの白い薔薇が

スローモーションで蘇(よみがえ)り、

ちいさな心音だけが支配している

ちっぽけなこの世界で、

唯一無二の〝ヒカリ〟のように

凛と咲き誇っていた。

「ねぇ。」

すこし寝惚けて、掠れた声と響きで彼女は

起き抜けのコーヒーを所望した。

-茜空