この扉の鍵は彼女が持っている。
この扉は彼女しか開(ひら)けない。
僕は彼女に特別な言葉を使った。
それは僕が初めて自分の弱さを曝け出そうとしたのかも知れない。
だからその言葉をとある小説で見たときひどく混乱した。
ある経験と事実がその混乱に拍車をかけ、関係を切っていた彼女への心配と不安、僕が犯した罪の重さが僕の心を蝕み押し潰していった。
僕の彼女にまつわる記憶はものすごく大きくかけがえのない大切な安らぎであり、それと同時に永遠に覚めない悪夢と痛みを産み続ける毒を孕んだ劇薬でもあった。
それでも感覚的に、僕は彼女に二度とあうべきではない。そう思い誓い努めた。
彼女は自力で幸せになる。僕が知っている彼女はそんな強さと素敵な魅力を持った女性だ。そうなってほしい。
僕はこのままこの劇薬を飲み続け、消えてしまえばいい。さいわい記憶だけでも弱さは紡げる。
なのにこの涙はなに?
他の瑣末なことはすべてどうでもいいこと。